<修正8/10 加筆9/18>
メガミドSS < 告解 -Confession- > 二稿
みどかつSS リヴァーシブル版
< Luciferians - 信徒 - > ルシフェリアン LINK
舌先で触れると、その背が痙攣するように震えた。 告解 - Confession - 白い皮膚に斜めに朱を引いた裂傷。 シャワーを浴びて朝のベッドに戻ってきた佐伯は、髪に残る水滴を拭おうとして、背の傷に触れた生地の感触に顔をしかめた。すぐに冷笑の形に唇をゆがめ、私に向かって挑発的な視線を投げてくる。 傲慢な目線を私は平然と受け流し、薬を塗ってやるからとベッドの上に座らせ、強引に背中を向けさせた。だが、サイドボードの薬箱から取り出した塗り薬は、蓋を開ける前になぜか私の指から滑り落ち、床に転がっていった。 舌先に感じる引き千切れた薄皮のかすれ、かすかな皮膚の凹凸(おうとつ)。夜を経た傷は既に殆ど血は止まり、血球の混じらない透明な体液が滲んでいる。 「‥‥御堂、何を‥する」 佐伯が身をよじって、後ろ手に、その腕を伸ばしてくる。 「動くな。治療中だ」 伸ばされた右腕を、手首を取って掴む。 そうだ、お前は常に私の欲しいものを知っている。 同じように手首を握って押さえ、佐伯の気が変わらないうちに、素早く右手と揃え、後ろ手のまま重ねさせる。 「おい、何をする気だ?」 戒められてなお、思わぬなりゆきを楽しんでいるような口ぶりは、いつもの佐伯克哉だ。 「‥‥っ」 痛みに眉根を顰める気配がする。 「御堂‥‥」 熱を含んだ佐伯の呼びかけが背中越しになぜか遠く聞こえる。 「お前の味がする」 掻き毟られた裂傷に触れていると、昨夜だけでなく、遠く続く夜へと意識が滲んでゆく。 あれは一年と少し前。 幻肢痛のような痛みが、一瞬駆け抜けてゆく。 確かめるように胸元に手を当て、指先で探る。 しかし、瘡蓋すらできず、皮膚は薄皮すら取り戻せていない、いまだ体液を滲ませ続けるなまなましい傷口。 脳裏に蘇る、血の味。 緋の色をした惑乱の日々。強いられた恐怖と支配。 ただ無意味に繰り返される嗜虐行為と苛立つ感情の狭間に陥り、佐伯もただ藻掻いていた。 今も時折、闇に眼覚める。 そんな時、きまって背中から私を抱いて、佐伯が眼を覚ましている。独り闇の中に何を見つめているのか、かすかに呟く声。 「‥‥赦してくれ」 後悔と懺悔。或いは、贖罪を求めての告解。 昼の光の下で、佐伯も私も、決してその記憶には触れない。 眠った振りをしたまま、背中の向こうで消えてゆく、儚い告白の気配をただやり過ごす。 腕の中で振り向き、くちづけを与えればいい。告解も贖罪も必要がないと伝えてやれれば。 耐えられず、寝返りを打つふりをして、いつもお前の腕を逃れた。 「御堂‥‥?」 いぶかしげな声に我に返る。 わずかに抗ったが、すぐに力を抜き、若い肢体はゆったりとベッドに身を任せた。 視線はいつもお前の一番の武器だ。 シーツの上の背中、その上に重ねて束ねられた両手。 「ゆるしてくれ」 意味と裏腹に唾液は熱くお前の傷口に沁みて、痛みを与える筈だ。 「赦して、くれ」 私の意志を通らずに咽喉を押し出される声。 お前の血が、お前の罪が、私の唇を通して語った言葉などではない。 そうだ。 私の声に驚いたように藻掻きだした佐伯の背に片膝を立て押さえつける。 苦しいか。逃れたいか。 「言え、赦さないと」 赦せるはずなどない。 あの時も、今も、おまえを欲して自分で自分自身を掻き毟る指先から、傷口から絶え間なく私は失血してゆく。 流しつくしてしまいたい。 かなわぬなら、いっそおまえを壊してしまいたいとすら思う。 「‥‥っ!」 身体の下で、身を捩る気配がして、意識が再び引き戻される。 「欲しいか‥‥、私が?」 両足の間で、佐伯の身体を挟み込んだまま、肩を掴んでその体躯を反転させる。 「なぜ、なすがままにされている?」 思わずお前の顔を覗き込む。 「‥‥御堂」 素早く顔を寄せて唇で唇を塞ぐ。その先の言葉など要らない。 そうだ、卑怯者は私だ。 湧き上がる欲望に閉じたまぶたの裏が白い闇に染まる。 きっと今の私は、あの時のお前と同じ眼をしている。 罪ならば引き受けよう。祈りなど要らない。 「佐伯‥‥」 代わりに痛みにまがう快楽を。 既に限界まで高ぶっている互いの中心を繋ごうと身動きしながら、何度も交わされるくちづけのなかに、けして言葉に出来ない祈りを溶かして消してゆく。 「‥ゆ‥る‥‥‥。」 どちらが呟いた言葉なのかすら、絡めあった身体ほどに区別はつかない。誰に向けて何を求めての告解なのかも分からぬままになお私たちは繰り返し乞い続ける。 赦してくれ。 赦してくれ、どうか。この男を愛したことを。 fin −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
両の肩甲骨の上に、浅くかすれた尾をひいて、幾筋も刻み付けられたそれは、昨夜、お前が私から奪いつくした理性の代わりに、この爪が刻み込んだ返礼だ。
その傷の意味を思い知らせようとして。
気が付けば、そのひどく煽情的な背中に顔を寄せ、私は舌を這わせていた。傷口に唾液が触れた瞬間、その背が僅かに痙攣する。
舌の上に海水に似た透き通るような苦く塩辛い味が移る。
お前の味が。
珍しく虚をつかれたといった声に、背の後ろで私はほくそ笑む。
愛撫に長けた指を今は封じ込めるために、強くこちらの指を絡ませる。
もう片方の腕を探って、前へと手を伸ばすと、どこかあきらめたような吐息を響かせて、後ろ手に左腕が差し出された。
私の欲望がどんなものか、お前の全身が私につきつけ思い知らせる。その背に傷を刻まざる得ないほどに。
昨夜からベッドの端に投げ捨てられていたビリジアンのタイをその両手首に巻いた。
無言のまま質問に答えずに、二重に撒いたネクタイを少しきつく締めて、結び目を作る。
背中の後ろで寄せられた腕の間に、肩甲骨が浮き出て、皮膚は薄くなり、傷口はますます赤みを帯びて私を誘った。
思わず背中ごと抱きしめると、この胸先の尖りが幾筋もの傷口をかすって、佐伯を刺激した。
胸に感じる背中は、やはりいつもより腫れていて、傷のせいか膿むような熱をもっていた。汗ばみ始めた背をなお胸先で擦りあげながら、うなじの後れ毛を束ねるように、首筋から背中へと舌を這わせる。お前がいつも私にそうするように、羞恥と劣情を掻き立てる仕草で。
その行為と意味を模倣するように、殊更、ゆっくりと。
尖らせた舌先で答え、一番深く長い傷を抉るようになぞってみせる。
この傷はこの男の背ではなく、鞭打たれた私の胸に刻まれていた筈だ。止め処なく赤く血を流しながら。
心臓の位置、身体の真奥から、悲鳴のように。
今はもう私の肌には傷痕すらない筈だ。
この昨夜の佐伯の背の傷も、血は既に止まっている。
あの日々の記憶は、この生傷そのものだ。
二人の出会いをなぞるこの舌先から。
拒絶することに己の最後の矜持を懸けていた。
拒んでなお煮え湯のような快楽と屈辱を飲み込まされ、私は私を手放し、心よりもなお遠い場所へ逃れた。
互いに求めるものに気がつかないまま。
物音ではなく、暗く、重苦しい真夜中の気配が私を揺り起こす。
腕の中の眠りを妨げまいと、夜の静寂になお潜めた低い声は殆ど私の耳に届かない。
ただ、そっと贈られる髪先へのキス、性的なものをまるで感じさせない、輪郭を確かめることすらない淡い愛撫が伝えるもの。
繰り返された人でなしのあの仕業を。強いた苦渋の日々を。
彼は闇と沈黙の中に独り悔いている。
手当てができるほどに、癒せるほどに互いの言葉を取り戻せるのは、たぶんもう少し先のことだ。
夜は長く、果てがなく、私は聴聞僧にはなれそうにない。
神の赦しも涙もまだ私から遠い。
だが、お前の声があまりに切なく、そして蘇る記憶がこの身体を苛み、縛り付ける。
そのまままんじりともせず迎える夜明け。
その青ざめた曙光をお前も知っていただろうか。
佐伯のうなじに顔を埋めたまま、しばらく自分の思いに沈んでいたらしい。
動き出そうとする肩を、少し無理に力をかけて押し倒し、うつ伏せにする。
少し顎をまわして、乱れた前髪の中から、佐伯の左目だけが光り、私を見ていた。
手を伸ばして、その眼を塞ぐ。
全部奪い取ってみせる、今だけは。
なおその上にかがみこんで、押さえつけ、また肌に唇を寄せる。
舌で剥ぎ取るように、血の味を求めて強く傷口を愛撫する。
鉄錆の匂いを感じた。
思わず、私の口から漏れる言葉を私は聞いた。
いや‥‥これは、この傷を与えたことに対する私の謝罪、それだけに過ぎない。
決して。
許しなど乞わせない。おまえには。
あれが過ちなどと認めさせない。
あの日々もあの痛みも屈辱も、決して忘れない。
忘れさせない。
それとも、それは自分の科白だと言いたいか?
殊更、笑いを含んだ声を作って佐伯に命じる。
皮膚を剥がされ、灼けつく思いを抱いて、血を流し続けろ。
この私のように。
そんな自分を誰よりも許せない私がまだ私の血の中に残って絶え間なく私を責める。
流した血と血が混じりあい、灼熱の熱さに皮膚が融けて溶接され、二度と離れられなくなってしまえばいい。
痛みと憎しみに繋がれて永遠に。
この狂おしいほどの欲望をおまえが私に植え付けたのだから。
気が付けば、肩甲骨の傷に再び深く爪を立てていた。
痛みを噛み殺した吐息が、組敷いた身体の下で熱く荒くなる。
背中の傷口も拘束した腕もかまわずに、仰向けにして、ベッドに強く押し付ける。
怪訝なことに佐伯は微塵も抵抗しなかった。
唇に浮かんでいたのは冷笑ではなかった。そして、瞳に滲んでいるのは痛みではなく‥‥祈りにまがう、余りに真摯な感情の発露。
眼を逸らすかわりに、きつく閉じた。
罪で人を繋ぐことも罪でなくてなんだろう。
裁きの光に焼かれ、視力を失ったかのように。
罰を授ける優しさなど私にはない。
告解(こっかい): wikiより キリスト教のカトリック教会において、洗礼後に犯した自罪を聖職者への告白を通して、その罪における神からの赦しと和解を得る信仰儀礼。現在のカトリック教会では赦しの秘跡、正教会では痛悔機密、プロテスタント教会では単に罪の告白という言い方がされる。 カトリック教会および正教会では、教義上秘跡(機密)として扱われている。
ぎゅああああ、書いちまった! こういう方向性なんだ、オレのメガミドって。はぁ。ヽ(´△`ヽ) ファイル削除発作が起きる前に、とりあえずネットに曝しとけ。恥さらしご容赦。
初メガミドでございます、パラレル以外では。
すみません、。もし読んで下さったかたがいたら。
漫画の克哉×御堂編の発売が楽しみ過ぎて、メガミド妄想に走っちゃったよよおおお。いや、ただの妄想だわ。SSになってねーよ。 |l|i ○| ̄|_, |l
暴走しちゃって手綱が取れん。オレの頭の中って、物事を理論立られん常にクラインの壷状態。バカ。
しかし、例のもうひとつの克克やみどかつSSのほーで、眼鏡が好き勝手しているせいか、なんかこっちの眼鏡が受けくさ?(;^^A
本当はかなり鬼畜な予定です、うちの佐伯(;^^A
って、読んで下さる奇特なかたには大変迷惑ですが、修行中ご免!!
m(_ _ ;)m
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